スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

C86 BLEACH新刊サンプル【月雫】

C86 BLEACH新刊サンプル

【月雫】
一護×ルキア
シリアスベースながら、そこまで痛いお話ではありません(笑)
うっかりお品書きに書き損じましたが、イチルキ+海です。

8/16に参加する(東2 X48-b・KILL ME KISS ME)夏コミの新刊になります。
A5サイズの二段組みでP124。
そこそこ長いお話になります。
導入部分になりますが、興味のあるお方はどうぞ!










 雨は今でも苦手だった。

 じっとりと湿った空気は、いつかのあの日を思い起こさせる。
 幾ら降っても、降っても。
 全てを洗い流すが如くに降っても。
 消えはしないと知っているからだ。

 雨は今でも苦手だった。

 土に染みこむ透明な筈の雫が、ひたすら紅に染まると知っている。錆びた鉄の匂いの生温かいそれが雨と混じり、ひたすら紅に染まる。
 ひたすら、紅に、染まる。
 それは幾ら拭っても、拭いきれない罪の証。

 雨は、今もずっと嫌いだ。

 もうずっと嫌いだ。


 ――――でも、本当は、もうずっと……。







 その日もまた雨が降っていた。
 雨が降り出したのは昨日からだ。しかし、それも無理からぬ事。時節は春と夏の境、つまりは梅雨だ。
 六月中旬に梅雨入りして以降、今年は兎角、雨が多い。梅雨だからと言ってしまえば詮無いが、それにしても、と思うのは何も彼女だけではない。
 しかし、その明けも早いのではないかというのが、画面の向こうで天気図と統計から情報を弾き、解説する天気予報士の見解だ。明けたその先に待ち受けるのは猛暑だと続けた予報士の言葉を最後に、彼女、朽木ルキアはテレビの電源を切った。

 雨の日の外出は気後れする。
 面倒臭いと言っても良い。だが夕食の買い物に出ると言ったのは小柄な身体をすっぽり包む傘を広げたルキアだった。買う物はそう多くはない。牛乳と卵。それから朝食用のパンだ。今日の夕食はオムライス。希望したのもまたルキアだった。卵はその為に必要なのだ。希望したのが自分だったからこそ買って出た。
 いつも通っているスーパーは今日も盛況だった。
 何てこともない平日の夕方。しかし、これから夕市だ。夕方五時からのタイムセール。
 それを今か今かと待ち構えている主婦達の目はまるで獲物を狙う肉食獣のようである。今日は卵がワンパック七十八円だ。フリーサイズ十個入り。なかなかお得である。牛乳も二本で三百円。こちらは毎週火曜日の夕市では鉄板であり、常に目玉とされる商品である。ただし、おひとり様二本限りである。ついでに言うなら、卵は先着三百名様限りだ。
 果たして無事に入手することができるだろうか。ルキアのその懸念は至極切実だ。何故なら、最初にこの火曜夕市に出向いた時には、その日の目玉商品を手に入れることができなかったからである。理由は単純明快。現世に不慣れかつ、一般人と争って商品を競うなどという経験がなかったからだ。奪うことならば子供の頃の貧しさから幾度も経験はあったが、正々堂々真っ向から競うことはなかった。故に押し寄せる主婦の群れに息を呑んだその隙に、棚の商品はあっという間に消えた。
 いっそ見事だ、と悔しいだとか失敗したという気持ちより先に込み上げたのは賞賛だった。人目が遠ければ拍手さえ送っていただろう。それ程に鮮やかだったあの最初の夕市は、もう一生忘れることはないだろう。
 そういえば、あの日の目玉商品もやはり卵だった。だが値段が六十六円という破格。Sサイズ十個。先着百名。
 なるほど競争率が高いワケだ、と今なら納得する。
 そんなことを思い出しながらルキアは左腕の時計を見つめ、カチカチと時を刻む秒針を数えた。
「……よし」
 タイムセールを告げる放送より一瞬早く動いた彼女に隙はない。五時きっかりの初動は他の誰よりも早く目的へと到達した。
 斯くして、ルキアは目的のものを無事入手することに成功したのだった。

*

「本当に遊子は、料理が美味いなぁ」
 ファミリーレストランのメニューのようにこんもりと形の良いオムライスをペロリと平らげたルキアは、膨れた腹をゆっくりと円を描くように摩る。少しばかり食べ過ぎたかと思うのはいつもの事だ。
「まあな。おふくろの代わりにずっと料理してたしな。つーか、折角のオムライスもお前のアレのせいで台無しだけどな」
 ベッドにどっかりと座っていたルキアの顔色が瞬時に変わる。
 いつもの事とはいえ、勉強机で課題に取り組んでいるらしいこの家の長男坊は一言多い。
「アレとはなんだ?まさかチャッピーのことではなかろうな。アレは傑作だぞ!遊子は可愛いと言ってくれたし、おじ様だって喜んで下さった。夏梨だって意外と憎めないと言っていたではないか!それとも何か?貴様の分のチャッピーが可笑しかったとでも言うのか!?」
 まるでシェフが作ったかのような完璧なオムライスに最後の仕上げを施したのはルキアだった。
 最後の仕上げとは、ケチャップをかけること。
 ただそれだけの作業ではあるが、今日のチャッピーの出来は格別だった。少なくともルキアにとっては。
「ある意味、傑作に違いはねえけど、お前の絵心には成長の兆しすら見えねえ」
「なんだと貴様!チャッピーを愚弄する気か!?」
「別にチャッピーがどうこう言うつもりねえけどよ。お前の余りのセンスのな―――って、いてえッ!」
 言い切るより前に投げつけたのは、手近にあったティッシュの箱だ。後頭部に箱の角が命中した彼、黒崎一護は勢い良く振り返ると、眉間に険しく皺を寄せ、ルキアを睨んだ。
「物投げんなッ!痛えだろうが!」
「ふん。こんなモノも避けられんとは、鈍ったのではないか、死神代行殿」
 ふふん、とルキアが鼻で笑うと、一護の米神に青筋が立った。
「てめえこそ、相変わらずいい度胸しやがって」
 椅子から立ち上がった一護が、更にドスを利かせた声で続けると、ベッドの上のルキアの腕を掴んだ。
「なっ、コラ!貴様!」
「癖の悪い手はこれかコラ!」
 細い腕を掴んだ一護が、くいっと引くだけでルキアは容易くベッドに仰向けに倒れた。その一瞬の隙に、さっとベッドに上がった一護が、やはり素早くルキアの胴を跨ぎ膝立ちした。
「貴様ッ!?」
 マウントポジションを勝ち取った一護が、してやったりとばかりに口端を上げる。優勢なのは俺だと高々に宣言した彼に向かって空いた手で拳を作るが、それを繰り出すよりも早く拳を作った手も取られ、ルキアは身動きが取れなくなった。
 両手首をがっちりと掴まれ、ついでにシーツに縫い留められた格好は、ルキアにとっては間抜け以外のなにものでもないが、一護にとってはこれ以上ない征服の構図だった。
 ―――そして、第三者にとっては。
「そーゆーことは、皆が寝静まった頃に、こっそり出来るだけ静かにやってくんないかなぁ」
 気怠そうな声に二人は驚き跳ね、その声主に一斉に視線を向ける。一護の妹の夏梨だった。
 髪を後ろに高く束ねた彼女は、部屋のドアに寄り掛かりながら腕を組み、ベッドの上の二人を胡乱気に見つめた。
「か、夏梨ッ」
「こ、これはだな!」
 目が合うと同時に、大慌てで釈明をはじめようとした二人に、夏梨は遠慮のない溜息を吐いた。
「いや、別に部屋でヤるなとは言わないけど。ただ、まだ九時過ぎたくらいなんだから、どうせヤるならもっと遅い時間にしてくれればいいよ」
 あっけらかんと言い放った夏梨に、ルキアは目を丸くしたが、一護は食って掛かった。
「ちょ、待て!お前!勘違いすんな!これは単に……」
「嫌がるルキアちゃんを一兄が押し倒している図、だろ?」
「なんっ」
 視線を横に流しながら耳に小指を突っ込んだ夏梨は、止めを刺すが如く更に言い放った。
「まったく。これだからがっついてて嫌なんだよ。ドーテーは」
「誰が童貞だッ!」
「遊子が下に来いって。作ったプリンを食べようだってさ」
「は?」
 コロっと変わった話題についていけず、一護が間抜けな声をあげれば、夏梨は先程のルキアのように得意気に笑った。
「プリン食って風呂入ったら、あとは寝るなりヤるなり好きにしな」
「夏梨ッ!!」
 一護の叫びはバタンと閉まったドアの音に遮られた。去り際の夏梨の顔はおよそ中学一年生とは思えない余裕を湛えており、一体誰に似たのかと本気で思い始めたのは何も一護だけではなく、やはり現世の子供は早熟だと思いながら、ルキアは相変わらず自身に圧し掛かる恰好のままの一護を見上げた。
「最近の子供は皆ああなのか?だとすれば末恐ろしいぞ。尸魂界とはえらい違いだ」
「いや、少なくとも全員が全員ああじゃねえだろ。遊子なんかそういう方面には滅茶苦茶疎い。その分、夏梨が聡過ぎるってだけだ」
「しかし、兄を童貞呼ばわりするなど……うーん、流石夏梨だとしか言えんな」
「つーか、てめえも女なんだから童貞とか言うな」
「ん?なんだ?何が不満なのだ?別に事実だろう?」
「ああ、事実……って、ちょっと待て!なんで!てめえッ!?」
 ぐあっと顔を赤らめた一護にルキアは吹き出しそうになるのを堪える。滅多に見ることは叶わない様をマジマジと見つめながら、いつだったか耳に挟んだ情報を掻い摘んだ。
「本匠だったかな。そう言っておったのだ。ヤっただのヤってないだの噂立ってるけど、あれはどう見ても童貞だから、朽木さん気を付けてねぇ―――だそうだ」
「はぁ!?」
「ん?なんだ、似ておらなんだか?声色はばっちりだと思うが」
「いや、そうじゃなくて。てか本匠?」
「そうだ。あ、ちなみに他でも言われたぞ。夜一殿と浦原に」
「なっ」
「現世の十八歳なんて性欲の塊ですから気を付けてくださいねぇ。あ、ちなみに義骸でもそういうことデキちゃうんで、余計気を付けた方が良いっスよん―――とかワケ分からんことを言っておった。ちなみにこれは浦原でな。夜一殿からは、まあ、ヤるならせめて家族が寝静まった頃にこっそりとだぞ。声を出せん状況……」
「だぁああああ!待て待て待て!それ以上言うな!てめえには慎ましさってモンはねえのか!」
 思い切り被せるような一護の叫びに、ルキアは内心の笑いを噛み殺せず、小さく吹き出した。
「似ておらなんだか?」
「そーゆー問題じゃねえ!」
「そう怒ることでもあるまい。まあ確かに現世の十八歳ともなれば、そういった経験を少なからず積む者も多いらしいしな。いや、だが気にするな。そういうのは人それぞれだ。仮に貴様が童貞であったとしても、それが……」
「だから、童貞童貞言うなっつってんだろッ!」
 真っ赤になった一護が思い切り怒鳴る。少し苛め過ぎたかとルキアは苦笑しつつ、相変わらず自身を跨いだままの一護の頭へ右手を目一杯に伸ばして橙髪を撫でようとしたが届かなかった。一護ががっちりと掴んだせいだ。
「いち……」
「お前さ。もうちっと危機感ってものを持てよ」
「は?」
 ぎゅっと掴まれた腕の骨が僅かに軋む。無作為に力を篭められて自然と眉間が寄った。
「だから、この状況分かってるのかって言ってんだ」
「ああ、なんだ」
 一護が何を言いたいのか、ようやく合点がいき、ルキアはさてどうしたものかと考える。どうやら、要らぬ線に火が着きかけているようだった。参ったなとあれこれ考えるが、これといって良い案は浮かばない。だがしかし、このままでは非常に拙いことになりそうだった。
「私達は仲間だぞ?」
 選択としてはグレーだと分かっていたが、これが揺らぐことはないのは互いに承知している。敢えてそれを選んで言葉にすると、予想と違わない答えが返ってきた。
「そうだな」
「ならば、離してくれ」
 これで詰めにならなければ果たしてどうなるか。ルキアは置かれた状況に危機感を抱きつつも、どこか楽しんでいる自分に気づいていたが、できるだけその振りは潜めた。
「離さねえ、って言ったら?」
 そう来るか、とルキアはますます思考を巡らせる。
 詰めにされるには、まだ早い。
 まだ早い、という彼女の心から分かるように、ルキアはいつか自分が追い詰められることを知っていた。少し前の自分なら、それは全力で逃走すべき事項だったが、もうなんだかんだと来てしまった今、この男から逃れる術など無いと知っている。
 言葉にせずとも、もう当に自分の気持ちは寸分の狂いもなく伝わっていると知っている。しかし、今このまま詰められるわけにはいかないのだ。まだ整理がつかない、という自分自身の深い部分の声を聞いているから。まだだ、と他でもない自分が言うのだから、こればかりは譲れない。
 だから、とルキアは息を少しゆっくり吸った。
「今は困る」
 そう告げると、目の前の一護は飴色の瞳を丸くした。素直に驚いたと告げるその表情に、ルキアも目を丸く見開いた。
「……なんだ。その意外そうな目は」
「あ、分かるか?」
「貴様でも、そうやって驚くのだな」
「だって、しょーがねえだろ」
 ふっとこれまで合っていた筈の視線を逸らし、一護がガシガシと後ろ髪を掻く。気恥ずかしさを有り有りと伝える所作だ。
「お前ずっとはぐらかしてばかりだったから。だから驚くだろ。今は、とか言われたら」
「なんだ、不満か?」
 まるで盗み見るように視線を戻した一護に向かって、ルキアはわざと口端を持ち上げて言えば、一護は、うー、と子供のように唸ってから、少し大きく息を吐いた。
「不満って言えば、そうとも言えるけど。でもまあ、『今は』って言うなら待ってやってもいい」
 真正直な一護の言葉にルキアは苦笑した。
「貴様、何故上から物を言う」
「元からだ。てか、忘れるなよ、その台詞」
「言葉には責任を持つさ」
「なら、いいけど」
 そう言いながらも、どこか腑に落ちないような顔をしている一護にルキアは首を傾げた。
「気のせいか?まだ不満そうに見えるぞ」
「んー。気のせいじゃねえな。そうだな、どうすっかな」
「なんだ。何か要求でもあるのか」
 云々と唸りっぱなしの一護の襟を握り、ぐいっと引く。
「言いたいことがあるなら言え。気持ち悪いぞ」
「てめ、気持ち悪いとはなんだ。あー、じゃあ言う。言ってもいいなら言う」
 覚悟しやがれ、と悪戯に笑った一護が息を吸った。
「返事は『今は』の期限が切れた時にちゃんと聞かせてもらう。俺は―――」
「ちょ、ちょっと待て!一護!」
 その先を瞬時に察したルキアは、咄嗟に手を伸ばし、一護の口を塞いだ。
「今は困る、と言っただろう」
 両手で必死に押さえ、出来るだけ一護の顔を見ないように俯いたルキアはぶんぶんと首を振った。
 押し付けられた小さな手を一護はゆっくり剥がすと、俯いたままのルキアの頭にポンと手を乗せた。
「わーったよ。これも『今は』の期限が切れるまで待てばいいんだな」
 しょーがねえな、と漏らす一護をゆっくりと見上げると、おもちゃを取り上げられたような子供と、本当に仕方ないと言わんばかりの大人を交互に映す少年の顔があった。
 本当に一枚上手なのはいつだってこの一護だと思いながら、すまない、と心で詫びる。
「できる限り待ってやる」
「だから、何故上からなのだ」
 すると今度は、少年の顔で笑った。
「お前、こういうことには滅茶苦茶奥手だろ。俺だってそう気が長いワケじゃねえ。だから、あんまりグズグズしやがったら即、だからな」
「……酷い脅迫だな」
「うるせえ」
 いい加減、下に行かねえと遊子の機嫌を損ねちまう、と言い、自身の胴から降りる一護を見つめながらルキアは苦笑した。
「ほら、行くぞ」
「ああ」
 ぐいっと手を引かれたルキアは、その手の暖かさに安堵しつつ、感謝と申し訳なさをそっと手に籠めてぎゅっと握った。
 部屋を出る前、ふと窓の外を見れば、雨が今も降り続いていた。





--------------------------------------------------
続きは新刊にて。
というところでぶった切りますが、これはこれで一話分のようにも思える(…思えるだけっす)
もうちょっと仲良しさん続きながら、本編に入っていく感じです。
導入までがめっさ長いんです。
だからイチルキ+海とは言えない(笑)








スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
プロフィール

榊伽夜

Author:榊伽夜
KILL ME KISS MEの管理人。
関東圏内生息中の兼業主婦。
お仕事は県内の某IT企業のWebデザイナー。
お家は四人家族で二児の育児中。
このブログは本館にアップするまでのメモ代わり(笑)

リンク
Twitter
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。